1973年、劣悪な環境のメキシコの刑務所を、アメリカ人の青年ドワイト・ワーカーが女装して脱獄するという事件が起こった。
ここではその脱獄事件の詳しい経緯をお伝えする。
軽はずみにコカインの運び屋を引き受け…
ペルーのマチュピチュを旅していた医師を目指すアメリカ人の大学生ドワイト・ワーカーはある男に荷物を運んでほしいと頼まれた。
その荷物とは、違法薬物であるコカインだ。
当時貧乏だったドワイトは、無事にアメリカへ運べば大金が手に入ることからついこの話に乗ってしまう。
どのようにしてコカインを運ぶかを考えたドワイトは、救命士の訓練でギプスを患者に取りつけていたことを思い出し、コカインをギプスに入れるという妙案を思いつく。
そこでさっそく骨折を偽装して自分の体にギプスをはめ、その中にコカインを忍ばせた。
アメリカへ行くためにはメキシコを経由しなければならない。
まずメキシコ空港へ到着したドワイト、荷物検査でバレなかったので喜んだのも束の間、いきなり刑事に取り押さえられる。
聴取室へ連れていかれたドワイトだったが、さすがにギプスの中までは絶対に見られないだろうという自信があった。
ところが、取調官は電動工具で固いギプスを解体してしまい、ドワイトがコカインを持っていることがバレてしまう。
そこで警察はしきりに1枚の紙にサインをしろとドワイトに強いるが、その紙はスペイン語で書かれており、アメリカ人のドワイトには意味が分からない。
しかし警察は電流が流れている棒でドワイトを痛めつけ、拷問に耐えかねたドワイトはとうとうサインをしてしまう。
紙には何が書いてあったか?
それは裁判抜きで5年間の刑期を務めるという誓約書だったのだ…。
劣悪なレクンベリ刑務所
収容された場所は、刑務所内で年間200件もの殺人事件が発生するという「レクンベリ刑務所」だった。
あるとき、ドワイトはあるアメリカ人が他の囚人によってリンチされている現場を見て思わず助けに入るが、リンチしていた囚人を殴ってしまったために看守に取り押さえられる。
処罰として連れていかれたのは、「獄舎A」という刑務所の中で最も凶悪な殺人犯が400人以上収容されているところだった。
獄舎Aに入ったドワイトは、いきなり囚人の1人にナイフで腹を刺され1週間の入院を余儀なくされる。
しかしその後も9カ月間レクンベリ刑務所で生き延び、看守に月100ドルの賄賂を払うことで安全な独房に入ることにも成功する。
そんなとき、アメリカの友人のステファンが友人のバーバラという女性を連れてドワイトに面会に来る。
それがきっかけでドワイトとバーバラは付き合うようになる。
刑務所からの脱獄
バーバラはある時、刑務所から脱獄してほしいとドワイトに言う。
バーバラが提案した脱獄方法は、ドワイトが女装して面会人になりすますというものだ。
女装に必要な材料は化粧品とカツラと洋服だが、刑務所の近くに家を借りたバーバラはドワイトの体のサイズに合う服を作り、それを自分で着ながら面会に行き、ドワイトに渡すことに成功する。
さらに化粧品はバーバラの娘に持たせて刑務所内に持ち込むことができた。
カツラは枕の中に綿と一緒に詰め込んで刑務所に預け、ドワイトに渡した。
女装するための道具をすべて揃えてから、バーバラは面会人が刑務所に入るときにチェックされる4か所のポイントを説明する。
- 正門で身体検査。
- 毎日不規則で色が変わる8色の面会許可証に名前を書き、看守がサインする。
- 許可証を金属のタグと交換するが、これにも4つ種類があり、不規則に変化する。
- 2重のゲートがあり、金属タグを看守に渡して見せ独房に入る。
脱獄には4・3・2・1の順番にクリアする必要があるため、面会許可証と金属タグは必要不可欠だった。
金属タグは紙に型を書き写し、金属の種類から厚みまで調べ、バーバラが偽物を作成。
面会許可証は、看守が焚き木をしていたゴミの中から燃え残ったものをドワイトが発見し、入手することに成功。
そしてついに脱獄実行の日付を12月17日に決定した。
その時にはすでに、刑務所に入って1年9カ月の時が経っていた。
ドワイトはバーバラと結婚することを決め、彼女に自作の指輪を渡す。
結婚はドワイトとバーバラ双方の愛情の他に、メキシコでは妻が脱獄の助けをしても罪にはならないという変わった法律が存在しているからだった。
刑務所内で結婚してしまえば、脱獄してもドワイトはともかくバーバラは罪にはならない。
レクンベリ刑務所では刑務所内で入籍することが可能だった。入籍可能な日にちを刑務所の係に確認したところ、偶然にも脱獄しようとしていた12月17日。
そして当日に入籍した後、いよいよドワイトは脱獄するために女装をする。
偽装した面会許可証と金属タグを持ち、4の2重のゲートで金属タグを見せ通過。
3でも面会を終えたたくさんの女性に紛れ込み通過。
2の面会許可証を渡すところでも、偽造した許可書とはバレずに無事に通過。
最後の1の門では、看守に持ち物検査をされるため体に触られましたが見事に通過できた。
しばらく歩くと目の前に1台のタクシーが停まっており、その中にはバーバラがいた。
合流した2人はアメリカへ帰国し、ドワイト・バーバラ・バーバラの娘の3人で暮らす。
あれから40年たつが、メキシコはドワイトの送還要求はしていないそうだ。