母親嫌い?今東光の親孝行(小林秀雄対話集『直観を磨くもの』)

小林秀雄の対話集『直観を磨くもの』を読んでいたら、今東光の弟の今日出海と小林との対談で、今東光のことについて意外なことが書かれていた。

小林秀雄対話集『直観を磨くもの』

今東光の母親嫌い

今東光は『悪名』なんかで有名な小説家で、天台宗の僧侶になった人だ。

私は昔、よく今東光の『極道辻説法』を読んでいた。

叔父だか父が買ったものなので版は古いのだが、読むのに支障はない。

私は単純に、「面白い人だな」と思った。

その『極道辻説法』によく母親の悪口が書いてあったので、今東光が母親を嫌っているのは知っていた。

たしか、書いていた小説の原稿を燃やされただか、破られたとかいう話を書いていたと思う。

今東光の親孝行

ところが、『直観を磨くもの』で東光の弟の日出海がこんなことを言っている。

「兄貴、お袋が会いたがってるんだが、引き取ってくれるか」と言うと、「おお、いつでも引き取るよ」。それから、うちの兄貴は、お袋が耄碌してから、糞便まで世話したんだよ。そしたら、お袋は安心してなかなか死なねえんだな。一年以上生きちゃった。そういうものが日本人にはあるんだな。本当の親孝行というのは、一番親不孝な格好をしている兄貴がやっているんだ。

「へえ」と思った。

私は今東光とその母親について、『極道辻説法』で東光が母親の悪口を言っていたイメージでしか知らないからだ。

小林秀雄と今東光

小林の母親思いの方は結構有名だと思うが、今日出海が兄の東光と小林を並べて話している。

頭脳だって小林は偉いのだろうけれど、それが何だと言うんだ。俺が小林を敬愛したり好きだという所以は、「何でもない」ところにあると思っている。何もこの人には美徳はないかも知れないが、本当に小林がおっ母さんの事を思う時に、僕は感動するんだよ。兄貴がお袋のオシッコまで世話するのを見てもね。東光はいまだにお袋の悪口を書いていますよ。

これも直接の関係はないが、東光が小林のことを『極道辻説法』で悪く言っていたのを覚えているので、余計新鮮な感じがした。

小林秀雄の母親の宗教

余談だが小林の母親は天理教だったらしい。

そして晩年に病気になってからは「お光さま」という大本(おおもと)教系の宗教に入信したという。これも初めて知った。

小林はこう言っている。

お袋は、医者も薬も軽んじていたが、晩年は、もうお光さまのおさすりしか信じなくなったんだ。そいで、僕は、お光さまに入門する事にしたんだ。東京に通って免状を取ったんだよ。お光さまを首から掛けて胸に下げてね。お袋が死んじまえば、無用の長物だから捨てちまったがな。

最後に・今日出海と小林秀雄

今日出海と小林秀雄は普段からゴルフをするなど仲が良かったらしいが、対談自体はあまり乗り気ではないらしく、あまり噛み合っていない部分も感じるが、面白かった。

小林にしろ、三島由紀夫にしろ、評論のようなものより対談集の方が面白く感じる。

話し言葉で表現されるために分かり易いということもあるが、文士同士の関係性や距離感のようなものが窺えるせいでなおさら面白いのかもしれない。

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