ディオゲネスの弟子でストア派のゼノンの師である犬儒派のクラテス

クラテスはテーバイ出身の人で、異説もあるものの、一般的には「樽のディオゲネス」(犬のディオゲネス)の弟子とされ、犬儒派(犬儒学派・キュニコス派)の始祖アンティステネスからは孫弟子にあたる。

またクラテスはストア派の創始者であるゼノンの師としても知られている。

犬儒派のクラテス

哲学者になった切っ掛け

テーバイのクラテスが哲学者になった切っ掛けとして、『ギリシア哲学者列伝』ではフィクションである悲劇作品が引き金になったという説を伝えている。

彼がある悲劇でテレポス(ヘラクレスがテゲア王の娘を犯して生ませた子)という登場人物がみすぼらしい姿で立っているのを見たことから、それを憐れに思い、名家である自分の財産を他の市民たちにすっかり分け与えてしまったという話である。

ディオゲネスの弟子に

師のディオゲネスはさらにクラテスを説得し、彼の土地を放棄させて荒地にさせ、残った金も海に投げ捨てるようにさせた。

また既に決心を固めたクラテスは、彼の縁者が反対してやって来ると、そのたびに杖で追い払ってしまう。

ディオゲネス(紀元前412年?~323年)は質素な生活と奇人変人ぶりでも知られた古代ギリシャの有名な哲学者である。 樽の中で暮らしたこ...

クラテスの弟子たち

クラテスの弟子には、ストア派の開祖となったゼノンがいる。

また、メトロクレスとその妹のヒッパルキアは兄妹そろって弟子になった。

メトロクレス

メトロクレスについてはこんな馬鹿々々しくも愉快な話が伝わっている。

メトロクレスは元は逍遥学派(ペリパトス派)のテオプラストスの弟子だったが、ある時、(おそらく人前で)弁論の稽古をしている最中に、放屁してしまった。極端に気落ちしたメトロクレスは、家に閉じこもり食を絶って死のうとする。

クラテスはこれを知るとメトロクレスのもとに出掛け、ガスが体外に出されないと大変なことになると説明し、その後で自分もおならをしてみせて、メトロクレスを元気づけた。メトロクレスはすっかり感激し、クラテスの弟子になった。

メトロクレスはクラテスのもとで哲学に習熟し、年老いて死ぬ時も自ら息を止めて死んだと伝えられている。

ヒッパルキア

メトロクレスの妹のヒッパルキアはクラテスに惚れ込み、どんな求婚者にも目をくれず、クラテスと結婚できなければ自殺するとまで言って両親を脅かした。

クラテスの暮らしぶりを知っているヒッパルキアの両親は、同じように暮らすのは到底無理だと考え、クラテス自身にも説得を依頼しますが、それでもヒッパルキアは応じない。

そこでクラテスは最終手段として衣服を全部脱ぎ、「これがあなたの花婿で、財産はここにあるので全てだ。よく考えて決めなさい。私と同じように暮らせないならば、あなたを妻にはできない」と言ったが、ヒッパルキアは躊躇せずに妻になることに決めた。

こうしてヒッパルキアはクラテスの妻になると、当時の女性には考えられないような生活を夫とともにした。これについて『ギリシア哲学者列伝』は、同じ衣服を着て一緒に歩き回り、同じ場所に出掛け、それどころか人前で公然と交わった(性行為をした)としている。

その他の逸話

アレキサンダー大王が故国テーバイを破壊した後で、クラテスはアレクサンダー大王に「祖国を再建してほしいか」と訊かれると「どうしてその必要があるでしょう。おそらく別のアレクサンダーによって破壊されるだけです」と答えた。

彼は死期が迫っていると感じると、自分自身にこう語りかけていた。

親愛なる猫背の男よ、
お前は行こうとしているのだ、
ハデスの館へと。